大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 平成3年(オ)1170号 判決

上告人

有限会社葵製紐所

右代表者取締役

安達敏郎

右訴訟代理人弁護士

藤平芳雄

被上告人

河原林孟夫

右訴訟代理人弁護士

石田晶男

被上告人

橋本治郎衛

右訴訟代理人弁護士

大野康平

主文

原判決を破棄する。

原判決中、上告人の本訴請求に係る部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

原判決中、被上告人橋本治郎衛の参加請求に係る部分につき本件を京都地方裁判所に移送する。

理由

上告代理人藤平芳雄の上告理由第三点について

一  記録によれば、本件訴訟の経過は次のとおりである。

1  上告人は、被上告人河原林孟夫に対し、昭和五〇年五月二二日、売買契約に基づく本件土地(一)、(二)の所有権移転登記手続及び不法行為に基づく損害賠償を求める本訴を提起した。その主張の骨子は、(1) 上告人は、被上告人河原林から、昭和四二年一二月九日、本件土地(一)、(二)及び本件土地(一)の上に存する本件建物を代金合計一七〇万円で買い受けた(以下、この売買を「本件売買契約」という。)、(2) 上告人は、昭和四五年ころ、本件土地(二)の上に建物を建築する目的で三〇〇万円相当の木材を購入したが、被上告人河原林が建築を妨害したため、建築に着手することができず、右木材が朽廃し、三〇〇万円の損害を被った、というものである。

2  第一審裁判所は、本件売買契約の成否などの争点につき審理を遂げた上、昭和六〇年一二月一三日、本件売買契約の成立が認められるとして、本件土地(一)、(二)につき上告人の所有権移転登記手続請求を認容したが、被上告人河原林の建築妨害の事実は認めるに足りないとして、上告人の損害賠償請求を棄却する旨の判決をした。

3  被上告人河原林が控訴の申立てをして、原審係属中の平成二年三月一日、被上告人橋本治郎衛は、被上告人河原林に対し本件土地(一)、(二)につき所有権移転請求権保全の仮登記に基づく本登記手続を、上告人に対し右本登記手続の承諾をそれぞれ求めて、民訴法七一条による参加の申出(以下「本件参加の申出」という。)をした。その主張の骨子は、次のとおりである。(1)社寺信用組合は、被上告人河原林に対し、昭和四一年四月五日、五〇〇万円を貸し付け、その担保として本件土地(一)につき代物弁済予約をして、同月一三日、所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。(2) 被上告人橋本は、社寺信用組合に対し、昭和五〇年六月二五日、被上告人河原林の残債務相当額を支払って、社寺信用組合から貸金債権及び仮登記担保権の譲渡を受け、同年八月一四日、右仮登記の移転付記登記を経由した。(3) 被上告人橋本は、被上告人河原林との間で、昭和四二年一〇月二六日、本件土地(一)、(二)を代金一六〇万円で買い受けることとする旨の売買の一方の予約をし、同四九年一一月一三日、本件土地(二)につき所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。(4) 被上告人橋本は、被上告人河原林に対し、昭和五六年六月二四日、本件土地(一)につき代物弁済の予約完結の意思表示をし、本件土地(二)につき売買の予約完結の意思表示をした。(5) 被上告人橋本は、上告人及び被上告人河原林に対し、平成二年三月二日、本件参加の申出書によって本件土地(一)につき清算金がない旨の通知をした。(6) 上告人は、昭和五一年三月二三日、本件土地(一)、(二)につき処分禁止の仮処分登記を経由した。

4  上告人は、本件参加の申出につき民訴法七一条の要件を欠くものであるとして争い、また、右3の(3)の売買の一方の予約は通謀虚偽表示であるなどとして被上告人橋本の主張事実を争った。

二  原審は、まず、本件参加の申出は民訴法七一条後段の要件を満たすものであるとし、さらに、右一の3の被上告人橋本の主張事実は認めることができ、同4の上告人の通謀虚偽表示の主張事実は認めるに足りないから、被上告人橋本の請求をいずれも認容すべきであるとした上、本件参加の申出は、本件土地(一)、(二)の所有権をめぐる紛争を上告人と被上告人河原林との間及び被上告人橋本と上告人、被上告人河原林との間で同時に矛盾なく解決するためのものであるところ、上告人の被上告人河原林に対する所有権移転登記手続請求は民訴法七一条に基づく参加訴訟の形態及び目的からの制約を受け、被上告人橋本に対して所有権を主張できない立場にある上告人は、被上告人河原林に対しても所有権を前提とする請求をすることができなくなるものと解すべきであるとして、上告人の主張事実について判断するまでもなく、上告人の請求を棄却すべきものであるとした。

三  しかしながら、上告人の被上告人河原林に対する売買契約に基づく所有権移転登記手続を求める本訴につき、被上告人橋本が、被上告人河原林に対し代物弁済の予約又は売買の一方の予約による各予約完結の意思表示をしたことを理由とする所有権移転請求権保全の仮登記に基づく本登記手続を求め、かつ、右仮登記後にされた処分禁止の仮処分登記の名義人である上告人に対し右本登記手続の承諾を求めてした本件参加の申出は、民訴法七一条の要件を満たすものと解することはできない。けだし、同条の参加の制度は、同一の権利関係について、原告、被告及び参加人の三者が互いに相争う紛争を一の訴訟手続によって、一挙に矛盾なく解決しようとする訴訟形態であって、一の判決により訴訟の目的となった権利関係を全員につき合一に確定することを目的とするものであるところ(最高裁昭和三九年(オ)第七九七号同四二年九月二七日大法廷判決・民集二一巻七号一九二五頁)、被上告人橋本の本件参加の申出は、本件土地(一)、(二)の所有権の所在の確定を求める申立てを含むものではないので、上告人、被上告人河原林及び被上告人橋本の間において右各所有権の帰属が一の判決によって合一に確定されることはなく、また、他に合一に確定されるべき権利関係が訴訟の目的とはなっていないからである。

四  以上の次第で、本件参加の申出は、民訴法七一条の参加の申出ではなく、その実質は新訴の提起と解すべきであるから、原審としては、被上告人橋本の参加請求に係る部分を管轄を有することが明らかな京都地方裁判所に移送し、被上告人河原林の控訴に基づき第一審判決の当否について審理判断すべきであったのである。そうすると、これと異なる原審の前記二の判断には、民訴法七一条の解釈適用を誤った違法及び理由不備の違法があり、右違法が判決に影響することは明らかである。以上の趣旨をいうものとして論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。したがって、原判決を破棄した上、原判決中、上告人の本訴請求に係る部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻すこととし、被上告人橋本の参加請求に係る部分につき本件を京都地方裁判所に移送することとする。

よって、民訴法四〇七条一項、四〇八条、三〇条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官尾崎行信 裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫)

上告代理人藤平芳雄の上告理由

第一点〈省略〉

第二点〈省略〉

第三点 原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令解釈適用の誤りがあり、また弁論主義違背があるから破棄さるべきである。

一 原判決はおよそつぎのように述べて第一審原告の本件(一)(二)の土地についての第一審被告に対する所有権移転登記手続請求の訴えを棄却した。

「第一審原告の第一審被告に対する請求は、第一審原告が昭和四二年一二月九日第一審被告から本件各土地を買いうけたことを理由とする所有権移転登記手続請求であるところ、右売買の事実が立証されるかぎり、第一審原告から第一審被告に対する右所有権移転登記手続請求が認容されるのは当然のことであるが、本件各土地については、第一審原告のほか、前記認定のとおり、参加人も同じく第一審被告からこれを取得しているのであり、しかも参加人は本件各仮登記を経由しており、本件参加訴訟において、右仮登記に基づく本登記手続請求が認容されており、その結果何らの対抗要件を備えていない第一審原告は右所有権取得を参加人に対抗することができない立場にある。

ところで参加人の本件参加訴訟は、第一審被告に対しては本件各仮登記に基づく本登記手続請求を、第一審原告に対しては右本登記手続の承諾を求めるものであって、形式上は第一審原告に対し本件各土地の所有権確認を求めてはいないものの、その内容は第一審原告に対しても本件各土地が参加人の所有であり、少なくとも参加人に対する関係において第一審原告の所有権を否定しているものであることは明らかである。そして参加人が第一審原告と第一審被告との間に係属していた本件訴訟(昭和六〇年(ネ)第二六二〇号事件)に当事者参加申立てをしたのは、本件各土地所有権をめぐる紛争を、第一審原告と第一審被告の間だけでなく、参加人と第一審原告、第一審被告の三者の関係において同時に矛盾なく統一的に解決するためであり、したがって第一審原告の第一審被告に対する前記所有権移転登記手続請求も右参加訴訟の形態、目的から制約をうけざるを得なくなるというべきであり、本件訴訟においては第一審原告が参加人に対し本件各土地の所有権を主張できない立場にある以上、第一審被告に対してもまた右所有権を前提とする請求はできなくなると解さざるを得ない。もし本件参加申立てがあるにもかかわらず、第一審原告の第一審被告に対する右所有権移転登記手続請求もまた認容されなければならないとすれば、第一審原告がこの判決に基づき、参加人に先立って所有権移転登記をすれば、参加人は再び第一審原告を相手として本件仮登記に基づく本登記をするための承諾請求をしなければならないし、また参加人が先に本登記をしてしまうと、第一審原告は勝訴判決があるにもかかわらず、その結果を実現することができなくなってしまうのである。このような結果を避けるためには、本件訴訟における第一審原告の請求を否定するほかはない。よって第一審原告の第一審被告に対する所有権移転登記手続請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないというべきである。」

二 しかし本件(一)の土地に関するかぎり原判決は誤っている。

1 本件(一)の土地につき、参加人は第一審被告の社寺信に対する債務を代位弁済したことにより、社寺信より譲りうけた仮登記担保権の実行として、第一審被告に対し仮登記の本登記手続を求め、処分禁止の仮処分登記を経由している第一審原告に対し、右本登記手続につき承諾を求めているのである。

登記法(甲一五、二八)によると、本件(一)の土地については竹盛憲治郎という後順位担保権者(物上代位権者)の存在が認められる(乙区六番附記一号)。

しかし参加人が右竹盛に対して仮登記担保契約に関する法律(以下「仮登記担保法」という)第五条第一項にもとづく通知をした旨の主張もなく、立証もない(なお、原審裁判所もこの点につき参加人に釈明を求めていない)。

2 最高裁判所昭和六一年四月一一日第二小法廷判決(民集第四〇巻第三号五八四頁)は

「土地又は建物(以下「土地等」という。)の所有権の移転を目的とする仮登記担保契約に関する法律(以下「法」という。)一条にいう仮登記担保契約の債権者(以下「仮登記担保権者」という。)は、右契約の相手方である債務者又は第三者(以下「債務者等」という。)に対し法二条一項の規定による通知をし、その到達の日から二月の清算期間を経過したのちであっても、法五条一項に規定する先取特権、質権若しくは抵当権を有する者又は後順位の担保仮登記の権利者(以下これらの者を「後順位担保権者」という。)のうち同項の規定による通知(以下「五条通知」という。)をしていない者があるときには、その後順位担保権者に対しては、法二条一項の規定により土地等の所有権を取得した旨を主張して、仮登記に基づく本登記についての承諾の請求(不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項参照)をすることはできないものというべきであり、また、五条通知を受けていない後順位担保権者は、清算期間の経過したのちにおいても、法一二条の規定の類推適用により土地等の競売を請求することができるものと解するのが相当である。(以下略)」

と判示している。

3 右判例によると、法五条の通知をうけていない後順位担保権者である前記竹盛は本件(一)の土地につきなお競売の申し立てをなしうる立場にある。原判決において参加人の第一審被告に対する仮登記に基づく本登記手続請求を容認しても、参加人の所有権取得はいまだもって対抗力をそなえた完全な所有権取得ということはできないものである。

もし竹盛によって競売申し立てがなされ、その競売手続が取消されることなく換価段階に進み、第三者に売却許可となれば、参加人といえども、その所有権を失うわけである。

4 本件において参加人が第一審原告に対する承諾請求とともに右竹盛に対しても仮登記担保法五条一項による通知をなし承諾請求をしているのであれば独立当事者参加の趣旨、合一確定の要請等から原判決のいうところもあるいは理由があるかもしれない。

しかし本件では、本件(一)の土地の所有権が何人に確定的に帰属するのかはいまだ未定の段階にあるといわねばならない。とすれば権利の相対的帰属の考え方によって裁判がなさるべきである。

5 しかも参加人は本件参加訴訟において、第一審被告に対しては仮登記に基づく本登記手続を、第一審原告に対しては右につき承諾を求めているにすぎない。その求めているところは本登記手続請求であり、承諾請求であり、これが訴訟物である。原判決もいうように参加人より所有権確認請求もされていないのである。原審としては求められたかぎりにおいて判決すべきであった。これは弁論主義の要請であり、民事訴訟法第一八六条の明定するところである。そうすると原審が参加人の請求を認容すべきものと判断されるのであれば、第一審被告に対しては仮登記に基づく本登記手続をなすよう命じ、第一審原告に対しては承諾をするよう命ずる判決をすれば足りるわけである。

そして第一審原告の第一審被告に対する昭和四九年一二月九日売買を原因とする所有権移転登記手続請求についても判断を加え、これが認められるのであればその登記手続を命じ、認められないのであれば、そのときにはじめて請求棄却の判決をなすべきである。

6 原判決は、「参加人の請求も認容し、かつ第一審原告の第一審被告に対する登記手続請求をも容認した場合に第一審原告が参加人より先に登記を了したときは、参加人は再び第一審原告に対し承諾請求をしなければならなくなり、独立当事者参加の制度、合一確定の趣旨に反する」という趣旨のことを述べる。

しかしこれは参加人が仮登記担保法の手続をその定めるとおり履踐しなかったためにおきたことであり、やむをえないというべきである。

そして本件においてかりに第一審原告が認容判決にもとづき、参加人より先に所有権移転登記を経由したとしても、参加人が竹盛の承諾をもとりつけてきて対抗力をそなえた完全な所有権を取得すれば、参加人の仮登記におくれる第一審原告の所有権登記もいずれ抹消されることになり、実体上なんら不当な結果をひきおこすことにもならない。

三 これを要するに、原判決は仮登記担保法第五条、第一二条、民事訴訟法第七一条の解釈適用を誤り、また民事訴訟法第一八六条にも違反しており、これらの違背は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄さるべきである(民事訴訟法第三九四条)。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例